鹿児島県医療法人協会会報 vol.54・55合併号
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12講演報告21.医療事故等の激甚化近時、今までならばそれほど派手に扱われていなかった医療事故等について、マスコミで派手に扱われるようになった。また、一つひとつは報道されなかったような医療事故等についても、一応の報道がなされるようになったように感じる。ここで言う「医療事故等」とは、「医療過誤」の事例やその疑いの事例、さらには、医療事故調査制度に言う「過誤の有無を問わない」医療事故死など全般を広く指す。つまり、医療事故等に激甚化が生じているという印象である。2.愛西市医療事故調査委員長による積極的公表たとえば、愛知県の愛西市が新型コロナワクチン接種で生じた医療事故を、その医学的評価も含めて記者会見したり、ホームページに事故報告書をそのまま掲載したりした。そのため、一般のマスコミも含めて、メディア・スクラムが生じ、一般国民皆が知るところとなっている。さらに、立て続けに、民事の損害賠償請求訴訟が名古屋地方裁判所に提起された。遺族の感情も逆撫でされて、特定の医師への刑事告訴の意向も示されたらしい。記者会見や事故報告書公表(それも、医療行為の医学的評価も含めて公表)が、「医療事故」の激甚化を招いた一例と評しえよう。3.岩見沢市立病院のマスコミ公表事例また、近時、北海道の岩見沢市立総合病院では、「医療事故調査制度」に言う「医療事故」を医療事故調査・支援センターに報告したことをわざわざ公表し、しかも警察にも届け出て今は警察の捜査中ということである。派手にマスコミに出たので、ご存知の方も少なくないかと思う。警察の捜査の対象は、いつも個々の医師個人である。常に、その捜査対象となった医師の不安・恐れはいかばかりかと思う。4.国立国際医療研究センター病院のマスコミ報道似たような公表・報道ケースでは、やはり近時、国立国際医療研究センター病院でも、医療事故の報道がなされた。一旦は「医療事故調査制度」の「医療事故」ではないという判断が病院管理者によってなされたにもかかわらず、外部の専門家からの意見によって、その判断が覆されて「医療事故」と変わり、センター報告がなされたらしい。遺族は、民事訴訟で病院と並んで医師個人も被告とし、医師個人への刑事告訴も行ったということである。5.医師への個人攻撃への帰結最近は、これらのように激甚化した事例が目に付く。いずれにおいても共通する原因は、「医療事故等の公表」にある。そして、医療事故等の激甚化は、医師個々人の心情を直撃してしまう。特に、医療事故調査制度について見れば、最近のマスコミ公表の各事例は、不当な認識・運用をしていると批判せざるを得ない。井上法律事務所所長・弁護士 井上 清成病院の医療事故公表による事件の激甚化~医療事故調査制度の最近の不当な認識・運用に関する政策批判~

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