鹿児島県医療法人協会会報 vol.54・55合併号
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13病院の医療事故公表による事件の激甚化/日本の医療安全政策の全体像および医療事故調査制度について講演報告31.日本の医療安全施策の全体像日本の医療安全政策の全体像として、主に行政が行っている対策の面から本稿で説明していく。各医療機関、各医療従事者が個々の持ち場・役割に沿って、入院や外来といった医療機関内を中心に、時に在宅医療等の場面で医療安全に取り組んでいただいているが、本稿では、政策面でどのような取り組みを行っているかを説明していく。日本では、医療機関は医療法の枠組みに沿って医療を提供することとなっている。医療法の中で、医療機関がすべからく遵守すべきルールを定めることで、医療機関としての最低基準を担保している。医療安全についてもいくつかの義務があり、医療安全に関する指針を定め、PDCAサイクルを回しながら改善をしていくこと、医療安全管理委員会を運用すること、職員向けの研修を行うこと、医療事故が起きた際は、院内調査を行い、医療事故調査・支援センターに報告することなどをすべての病院・診療所等が行うこととなっている。また、医療安全の取り組みへのインセンティブとしては、診療報酬の中で加算が設けられており、医療法による仕組みへの上乗せを評価して、取り組みを推進している。2.医療安全の取り組み推進の重要性2016年の米国の研究では、年間25万人あまりが医療的なエラーにより死亡していると推計している(Shojaniaら)。医療はそもそも状態が悪い患者に対して侵襲的な介入を行うものであり、リスクを伴うことがその存在意義からも避けられない。しかし、これらのエラーなどは、取り組みによって減らすことができることが明らかになっている。オランダでも国を挙げての取り組みが行われており、45%の予防可能な医療的エラーが減少したとされている(Bainesら2015年)。日本でも2002年に医療安全対策検討会議において、「医療安全推進総合対策」報告書が取りまとめられ、日本の医療安全対策の基本的な考えが示されたことに基づき、上記の様々な対策に取り組んできている。3.医療事故調査制度の取り組み2015年からは、医療事故が発生した医療機関で院内調査を行い、その調査結果を第三者機関が収集・分析することで再発防止につなげることにより、医療の安全を確保することを目的として、医療事故調査制度が全ての病院・診療所等に義務化された。この制度における医療事故とは、医療機関(病院、診療所、助産所)に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該医療機関の管理者がその死亡又は死産を予期しなかったものである。調査結果は、医療事故調査・支援センターへ報告され、センターは、医療機関が行った調査結果の報告に係る整理・分析を行い、医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行う。これまで、19の再発防止の提言が出版されている。第15号(薬剤誤投与)以降には、動画資料も提言に付随しており、各医療機関が院内研修等で利用しやすいものとなっている。第1号(中心静脈穿刺)、第4号(気管チューブ関連)など、一般的な状況に関するものも多数出版されているため、ぜひ一度、医療事故調査・支援センター(一般社団法人 日本医療安全調査機構)のWebサイトをご覧いただき、各医療機関の医療安全の向上に活用いただきたい。厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室室長 松本 晴樹日本の医療安全政策の全体像および医療事故調査制度について

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