鹿児島県医療法人協会会報 vol.54・55合併号
15/24

15絡的に「医療事故」として反映させて取り扱うべきということになりかねません。しかしながら、「責任追及」はあくまでも「医療過誤」に対してなされるべきであって、それを、専ら「医療安全」のみを追求している「医療事故」として取り扱ってはならないのです。たとえば、ともすれば、「医療事故調査制度」の名称変更の意見に共感したくなりがちな医療者の感覚も、誤った医療者的感覚の一環なのだと認識しています。4(弁護士)小田原先生から、このようなご認識をご披露いただきました。松本室長は、この点、いかがでしょうか。5(室長)医療事故調査制度の目的は、過失に対する責任追及ではなく、原因究明と再発防止を通じた医療安全の向上であるのは同じ認識です。なお、医療事故調査の結果として過失が明らかとなり、制度で規定されているプロセスとは別に、遺族への謝罪・補償、社会への説明等の検討が必要となる場合もあると認識しております。6(弁護士)遺族への謝罪・補償、社会への説明等が必要となっても、それはあくまでも、医療事故調査制度で規定されているプロセスとは別個であると言うことですね。7(室長)はい、そのとおりです。8(弁護士)医療者的な感覚の一つの例ですが、私が近時、医療者向けの医療安全管理のセミナーで、次の類した課題を出して、回答を求めたことがありました。それは、下記の設問です。(問)医療法に定める医療事故調査制度に関する次の記述のうち、正しいものを選んでください。(1) 制度では「管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」と定義されているが、ここで言う「予期」とは「予見」と同じ意味である。(2)「制度の対象事案」については、「医療事故の疑い」のあるものも含むと定義されている。(3)「 医療過誤」に該当する事案であっても「医療事故」に該当しない事案も、制度上は存在しうるものとされている。というものですが、皆さんでしたら、正しいものは、どれであると感じるでしょうか。9(会長)「正しいもの」は選択肢の(3)だと思います。10(弁護士)松本室長はいかがでしょうか。11(室長)小田原先生と同じく、選択肢の(3)はその通りだと思います。例えば、医療過誤があった事案であってもそれとは関係のない併発症や原病の進行により死亡した場合には、提供した医療に起因し、または起因すると疑われる死亡又は死産には当たらないため、医療事故の定義には該当しないと認識しております。12(弁護士)ありがとうございました。ところが、大多数のセミナー受講者、いずれも医療安全担当の方々なのですが、正しいものは選択肢の(2)だと勘違いしていたのです。「(2)「制度の対象事案」については、「医療事故の疑い」のあるものも含むと定義されている。」が正しいと勘違いしていたのです。13(会長)それは、現に、「制度の対象事案」たる「医療事故」には、「医療事故の疑い」のあるものも含むと説明している医療者もいたらしいので、そのためかとも思います。それは重大な誤りです。念のために付け加えますと、「医療事故の疑い」のあるものが「医療事故」なのではなく、「医療に起因すると疑われる死亡又は死産」が「医療事故」となりうるのであり、この点を混同してはなりません。そのような混同や誤解は正さないといけないと思います。本日のセミナーを企画した動機の一つでした。14(室長)「疑われる」という文言がどこにかかっているかについて述べておられるということでしょうか。「医療事故の疑い」が、すなわち「医療事故」となるのではなく、提供した医療に起因すると疑われる死亡又は死産であって、管理者が予期しなかっ医療機関に院内医療事故調査報告書を公表する義務はない

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る