鹿児島県医療法人協会会報 vol.54・55合併号
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1828(会長)先ほど、「予期しなかった死亡」について述べましたが、甚だしい誤りは、「予期」のところを「予見」と読み変えてしまうことでありましょう。 29(弁護士)松本室長、いかがでしょうか。30(室長)医療事故の定義で使用されているのは『予期』であり『予見』とは異なりますので、誤解のないようにしていただきたいと思っております。31(弁護士)2024年6月8日、日本医療メディエーター協会・日本ピアサポート協会Heals・日本医療安全学会などの共催で、国際シンポジウム「有害事象後の世界の取組み」が早稲田大学にて開催され、和田仁孝氏(早稲田大学法学学術院教授)の司会・座長の下で、アメリカ・台湾・ニュージーランド(オーストラリア)の各演者がシンポジウムを行っていました。たとえば、Jo Shapiroハーバード大学医学部耳鼻咽喉科准教授は、ピアサポートの提唱の第一人者として、「事故後の対応:医療者の癒しと医療安全のためのピアサポート」というテーマでの講演を行っていましたが、「医療事故等の激甚化の兆し」のある昨今、特に時宜を得たものであったと思っています。同氏は、「被害後の対応:患者の安全と関与した医療従事者の回復にピアサポートが重要な理由」を説明していましたが、特に、「長年にわたり、私たちのシステムは、私たちを無尽蔵の資源として扱い、私たちの身体的、精神的、感情的な健康を無視してきました。私たちはこれを内面化している」こと、及び、「臨床医の過失、感情的な影響」として「悲しみ、恥、自己不信、恐れ、孤立・孤独」を強調していました。そして、その「医療過誤の回復力に関連する要因」として、ピアサポート(同僚と話し合う、など)の重要性を熱心に説いていたのです。松本室長、いかがでしょうか。32(室長)医療事故の当事者となった医療従事者に対する精神的な支援は重要と認識しているところであり、医療従事者へのピアサポートを充実させていくことは、よいことだと思います。33(弁護士) 最近、ウェルビーイングという言葉が流行っています。世界保健機関(WHO)は、WHO憲章を公布しています。前文の一部において、「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」であると明示されました。定訳によれば、「健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」という意味です。ただ、それを平易化した公益社団法人日本WHO協会の仮訳によれば、「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。」とされています。小田原先生、医療従事者のウェルビーイングというのはいかがでしょうか?34(会長)医療従事者のウェルビーイングは大切だと思います。今後、このウェルビーイングという観点から充実させていくことがよいと考えています。35(弁護士)  ところが、最近、医療従事者個々人のウェルビーイングが低下している事例が出ているように感じています。たとえば、愛知県の愛西市が新型コロナワクチン接種で生じた医療事故を、その医学的評価も含めて記者会見したり、ホームページに事故報告書をそのまま掲載したりしました。2022年11月の事例発生直後から、一般のマスコミも含めて、メディア・スクラムが生じ、一般国民皆が知るところとなってしまいましたが、2023年9月の報告書についても報道がありました。さらに、立て続けに、民事の損害賠償請求訴訟が名古屋地方裁判所に提起され、遺族の感情も逆撫でされて、特定の医師への刑事告訴の意向も示されたらしいのです。記者会見や事故報告書公表(それも、医療行為の医学的評価も含めて公表)が、「医療事故」の激甚化を招いた一例とも思うのですが、どうでしょうか。また、近時、北海道の岩見沢市立総合病院では、「医療事故調査制度」に言う「医療事故」を医療事故調査・支援センターに報告したことをわざわざ公表し、しかも警察にも届け出て今は警察の捜査中ということです。派手にマスコミに出たので、ご存知の方も少なくないかと思います。警察の捜査の対象は、いつも個々の医療従事者個人です。常に、その捜査対象となった医師や看護師の不安・恐れはいかばかりかと思います。小田原先生、これらについていかがでしょうか。

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