鹿児島県医療法人協会会報 vol.54・55合併号
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20鹿児島県医療法人協会 顧問弁護士法人染川法律事務所 弁護士 染川 周郎第一審の地方裁判所で真剣に戦い、主張・立証を尽くしたのに、想定外の敗訴判決を言い渡されることがあります。この時は、控訴して高等裁判所で逆転勝訴判決を獲得すべく頑張ることになります。比較的最近の私の経験事例から何件かをご紹介します。先ず、争点が簡単な事例です。私の依頼者が知人に貸した500万円を返して貰えないということで貸金返還請求訴訟を提起しました。地方裁判所の審理では、被告(借用主)は、借りたことは認めるが、弁済済みだとして500万円の貸主の記名押印のある領収証を証拠として提出しました。貸主は、そんな領収証は書いていない、印鑑も自分のものではなく市販の認印であり、当該領収証は偽造だと主張して争ったという簡明な事案です。地方裁判所の判決は、領収証に貸主の押印があるから真正に成立したと推定される、領収証作成日に、貸主は借主宅を訪問している(貸主は返済の催促に行ったのだと主張しています)、借主は、領収証作成日の前日に定期預金500万円を解約しているといったことを根拠に、借主の弁済済みの抗弁を認めて、貸主敗訴の判決を言い渡しました。貸主として口惜しさと怒りで高裁で再度戦う決意をしたのですが、依頼していた弁護士は(実は私以外の弁護士でした)控訴しても勝ち目はないと引き受けてくれませんでした。そこで、貸主は、知人を介して私のところに控訴の相談に見えました。控訴期限は2週間ですから、私は、取りあえず控訴手続きだけはして、証拠や証言の検討をすることにしました。私は、領収証に貼付してある印紙に着目しました。その当時、印紙のデザインが変更されたことを思い出しました。調べてみますと、印紙のデザインが変更された前の年に当該領収証は作成されていたのですが、貼付してある印紙は変更後の新しい印紙であることが判明しました。そうしますと、借主提出の領収証は、偽造の疑いが濃厚になります。この事実を高裁で主張しましたところ、相手方は、弁済をした日に一旦は領収証を作成したが、紛失したので、返済した事実は変わらないから自ら作り直したのだと苦しい弁解の主張をしてきました。前日解約した定期預金の使途も法廷で種々論争をしていくうちに怪しくなってきましたこともあって、高裁判決は逆転で原告の全面勝訴に変更されました。Jeffrey Archerの小説に「A Prisoner of Birth」がありますのが、その中で遺言書の真贋が争われている法廷のシーンがあります。遺言書に貼られている切手の発行日は遺言者の死亡後3カ月後に図柄が変更されて発行されたもので、切手に重ねて書かれた遺言者の署名は偽造ということが判明するというもので、同じようなことはどこにでもあるのだなと可笑しくなりました。次は、法律の解釈適用が問題になった事案です。父親は戦後土木建設業を立ち上げそれなりの会社に成長させました。二人の息子がいましたが、事業の後継者としては能力の高い二男を選び、会社の株式は全部、事業承継制度を使って二男に譲っていました。父親は自己所有地上に会社の社屋ビルを建設していました。長男の生活費のことも考えて、遺言書では社屋の敷地は長男に相続させるということにしていました。父親が亡くなって数年後、長男は次男が社長をしている会社に対し、社屋敷地の土地を所有者である自分に返還して明け渡せという訴訟を提起してきました。そんな馬鹿なということで社長が私のところに駆け込んできました。と高裁における審理の実情

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