鹿児島県医療法人協会会報 56号
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11ISO 5665で医療事故調査制度を深化させる/医療事故調査制度に「標準化」の文字はない なお、医療事故に該当するかの判断や院内調査の方法等の標準化を進めるため、支援団体や医療事故調査・支援センターが情報や意見を交換する場として、支援団体等連絡協議会を制度的に位置付け、中央レベルと地方レベルで連携を図ることとしています。「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う留意事項等について(医政総発0624第1号)」より厚労省ホームページに「医療安全施策の動向について」という資料が掲載されている。その36枚目に「支援団体が行う支援」との項目があり、その下段に以下の記載がある。これは、医政総発0624第1号通知を正確に反映していない。むしろ、バイアスのかかった恣意的解釈を記載していると言うべきかもしれない。資料とは言え、行政文書であることに変わりはない。行政文書は、法令を忠実に記載する必要があるであろう。では、実際の医政総発0624第1号、平成28年6月24日厚生労働省医政局総務課長通知はどのように記載されているのであろうか。同通知の該当部分は、極めて完結、明瞭に記載されており、わざわざ解説する必要などないような通知文である。同通知第一の4本文は、「各支援団体等連絡協議会は、法第6条の10第1項に規定する病院等(以下「病院等」という。)の管理者が、同項に規定する医療事故(以下「医療事故」という。)に該当するか否かの判断や医療事故調査等を行う場合に参考とすることができる標準的な取扱いについて意見の交換を行うこと。」と記載されており、「標準化」を進めるとの記載はない。実際、この条文は、制度見直し当時、私たちが、医療事故調査制度の趣旨との整合性を厚労省と密に協議した結果として合意に達した文言である。この条文の意味するところは、「医療事故該当性の判断や医療事故調査を行う際に参考となるような標準的な取扱いがあれば意見の交換を行う」ということであり、医療事故該当性等の「標準化・画一化」を行うということではない。制度の趣旨と歴史的経緯を尊重し、条文に忠実に解釈を行うべきであろう。加うるに、この条文には、「なお書き」がある。なお書きは、「なお、こうした取組は、病院等の管理者が、医療事故に該当するか否かの判断や医療事故調査等を行うものとする従来の取扱いを変更するものではないこと。」と記載されており、各病院等の管理者が医療事故該当性を判断することが当然の前提であることが明記されている。医療事故調査制度の本来の趣旨を考えれば、「標準化・画一化」が不適切であることは明白である。本制度は、第3次試案・大綱案からパラダイムシフトして、医療現場中心の制度としてでき上った。本制度において、医療事故該当性は、病院等の管理者が判断を行うこととされており、各病院等の特性、個別性が考慮されている。医療事故の定義の「医療起因性」について、厚労省は、医政局長通知(平成27年5月8日医政発0508第1号)で、「『医療に起因する(疑いを含む)死亡又は死産』の考え方」の表を示しているが、この欄外に※2として、「①、②への該当性は、疾患や医療機関における医療提供体制の特性・専門性によって異なる。」と記載しており、個々の医療機関、疾患による個別性を明記している。大学病院等の大病院と中小病院の状況は異なる。大病院から助産所に至るまでを制度の対象とする医療事故調査制度は、それぞれの現場の特殊性を考慮して構築されたものであり、それだけの配慮があったればこそ、永年の混乱にもかかわらず、創設に至ったものである。創設の歴史的経緯を無視した恣意的解釈を行うことは医療事故調査制度崩壊に至るものであろう。さらに、平成28年6月24日厚生労働省医政局総務課長通知「第二の2なお書き」は、「なお、情報の提供及び優良事例の共有を行うに当たっては、報告された事例の匿名化を行うなど、事例が特定されないようにすることに十分留意すること。」としており、非識別化の必要性を述べている。個々の事例を持ち寄って「標準化・画一化」しようとする取り組みは制度の趣旨に反すると言うべきであろう。あくまでも、平成28年6月24日厚生労働省医政局総務課長通知第一の4の条文は、医療事故該当性の判断や医療事故調査を行う際に参考となるような標準的な取扱いがあれば意見の交換を行って参考としようという意味であり、その際は当然、同通知第二の2の条文にあるように、「非識別化」に細心の注意を払うべきものである。特別寄稿3鹿児島県医療法人協会 会長 小田原 良治医療事故調査制度に「標準化」の文字はない

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