鹿児島県医療法人協会会報 56号
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16講演報告1 カスハラ対策に関する法規制カスタマー・ハラスメント(略称・カスハラ)は、医療機関においてはカスタマーは主に患者・家族であることから、ペイシェント・ハラスメント(略称・ペイハラ)とも呼ばれる。そうすると、カスハラ対策とは、すなわち患者家族クレーム対策と同一のようにも思えよう。しかしながら、それら2つには違いがあるので、カスハラ対策を立法化以前の現時点で自主的に導入すべきかどうかは、各医療機関ごとに熟慮してもらいたい。まずは、カスハラ対策に関する法規制を見てみよう。ご存知のとおり、カスハラ対策を定める法律はない。パワハラ防止法とも言われる労働施策総合推進法は、未だカスハラの規制にまでは至っていないのである。近く労働施策総合推進法などの改正によってカスハラ規制も網羅されるかも知れないが、少なくとも今はまだ立法化されていない。つまり、各医療機関としては、カスハラ規制を行うか行わないか、その自主的な判断に任されているのである。熟慮してから、決断したいところであろう。法律はないが、地方自治体ではつい先頃、東京都が全国で初めての条例を制定した。2024年10月4日に制定された東京都カスタマーハラスメント防止条例である(条例の施行は、2025年4月1日から)。ここでは、主な条文を2ヶ条ほど挙げておく。「(事業者の責務)第9条第2項 事業者は、その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない。」「(事業者による措置等)第14条 事業者は、顧客等からのカスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。」もう1つだけ挙げると、厚生労働省がいわば標準的なマニュアルを作成して、それを普及させようとしている。ここでは、厚生労働省カスタマーハラスメント対策リーフレットから抜粋して引用したい。注目すべきところは、次のとおりである。「◎カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組み従業員・顧客への周知と、事実・証拠にもとづいた対応がカギ!」「◎カスタマーハラスメントを想定した事前の準備事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発・トップが基本方針・基本姿勢を明確に示す。井上法律事務所 弁護士 井上 清成-クレーム対応やパワハラ対応と比較しつつ-カスハラ対応について

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