7【誤用され続ける医療事故調】【医療事故調を歪める背景要因】ISO 5665で医療事故調査制度を深化させる現在の医療事故調の目的が「医療安全」であることは、2014年6月18日に成立した改正医療法で定められました。2015年10月1日の制度施行から9年が経過しました。医療安全や医療安全文化を、WHOが表1のように定義しています(https://www.who.int/publications/i/item/9789240010338)。改めて説明する必要もありませんが、現在の医療事故調はWHOドラフトガイドラインに則って運用しなければなりません(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061209.html)。(表1)リスクを一貫して持続的に提言し、回避可能な危害の発生を減らし、エラーの可能性を減らし、発生した場合の影響を減らすために、医療における文化、工程、手順、行動、技術、および環境を作り出す組織行動の枠組み。医療安全とは?医療安全文化とは?医療者が強固な安全管理システムの実装を通じて努力、運用するもの。しかし、制度施行から9年経過しているにもかかわらず、医療事故の原因を個人に帰する前近代的な非難の文化が、医療界では未だに残っています。そして、残念ながら、現在の医療法から完全に逸脱した手法でしか調査できない不適切医療事故調査委員による医療事故調が、昨今、報道され続けました(https://www.pref.aichi.jp/addc/eachfacility/tyuuou/department/pdf/casestudy_report230620.pdf、https://www.kobetokushukai.org/dl/safety/report/report01.pdf)。正しい事故調査手法を学ぼうとしない事故調査委員は、歪んだ期待にまみれ、邪な利益のために制度の趣旨を無視し続けています。間接的ではあっても、事故に関わった医療者に対する処罰感情を患者家族が抱くことは、私でも理解できます。しかし、「報告すると責められる」という恐怖をすべての医療従事者から拭い去ることが事故調査手法の鍵です。これを成し得ない限りは、真の医療安全を達成することは未来永劫叶いません。厚生労働省も「医療機関が行う医療事故調査制度の方法等」の通知(2015年5月8日医政発0508第1号:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000890263.pdf)で、「本制度の目的は医療安全の確保であり、個人の責任を追及するためのものではないこと」と明記し、個人の責任を問うことを禁じています。事故調査の当事者へのインタビューは、当事者から主体的に情報を提供してもらうための『相互信頼』が必須です。すなわち、医療事故調は警察の事情聴取とは全く異なります。刑事訴訟法に基づく捜査権が警察にはありますが、院内医療事故調査委員にはそのような権力は当然ありません。もちろん、警察は犯罪捜査をする機関であって、医療安全には全く寄与しません。2024年5月11日に東京保険医協会から発表された声明(http://expres.umin.jp/mric/mric_24092-24095%20new.pdf)は、これに関しての非常に重要な警鐘であり、賛同します。これらの誤用事故調に共通している背景要因は、以下の5点です。医療事故に関する記者会見に積極的な病院管理者は、自らの不勉強を羞恥心のかけらもなく晒し、医療安全を毀損していると公言しています。(2)事故調査委員の不勉強医療法では、『医療事故』の定義を『予期せぬ死亡症例』に規定しているにもかかわらず、歪んだ期待にまみれた事故調査委員は、自身に都合のよい医療事故の定義を規定します。このことは、群馬大学医療事故調に関する警鐘を我々が9年前、8年前にすでに指摘しています(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/orgnl/201505/542025.html、http://medg.jp/mt/?p=7465)。第6次改正医療法によって、医療事故調の目的が正式に決まりました。これまでの「責任追及」「処分」「処罰」「報復」「救済補償」が目的ではなく、「医療安全」が目的であると、パラダイム・シフトしました。この変化は非常に重要で、医療安全に理解の無い者にとって、最初にぶつかる大変難しい問題です。なぜなら、医療安全に理解の無い者にとっての拠り所は、「注意喚起」「確認励行」「周知徹底」といった「精神論」や「根性論」であり、そして、すでに失効している「厚生労働省リスクマネーその下位の概念に「安全上の問題の特定、コミュニケーション、および解決を奨励し、報酬を与える文化」「組織が事故から学ぶ文化」等を含んでいる。(1)病院管理者の不勉強
元のページ ../index.html#7