鹿児島県医療法人協会会報 56号
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8【不適切医療事故調査もヒューマン・エラー?】ジメントスタンダードマニュアル」だからです。「確認」「根性」「気合い」で防げる医療事故はありません。医療法から逸脱した事故調査では、表2に記す内容を掲載する瑕疵があります。・個人を特定できる内容の報告書を作成。・「診療レベルが低い!」という上から目線のマウント文章(権威勾配)。・客観的事実での時系列とすべきにも関わらず、「不安」や患者家族の「憶測」を記載するお粗末さ。・「適切な初期対応をしていれば、死亡しなかったはず」という結論ありきの最悪な後出しじゃんけん総括。・「確認と周知徹底で事故は防げたはず」という根性論丸出しの提言。・調査報告書を「和解」の材料にする。このような事故調査手法はすべて、医療安全を阻害します。「医療安全等にかかる講習会」を開催している医師会は多いですが、その演題が「医療トラブルの防止と対処法」といった患者側からのクレームへの対処法を取り上げる事例が多いです。クレームへの対処法は、「医療の外」の議論です。医療安全は、再発予防を目的とした純然たる科学という「医療の内」の学問です。この点に関しては、現行の医療事故調に関する厚労省内での検討会で、さんざん議論し、法律として結論づけられた基本事項です。医療事故調の対象症例を『予期せぬエラー』に恣意的に改変し、当該医療施設の規模や医療水準を全く考慮せず、『望ましい改善策が最も標準である』と吹聴している自称医療安全専門家がいます。中には、「診療行為が標準から逸脱しているか否かを評価すること」が重要であると流布する医療事故調査・支援センター常務理事もいて、呆れます。また、インシデント・レポートの提出を病院管理者が強制すべきであるという無知なパワハラ講演者も多いです。(4)権威勾配というパワー・ハラスメント医療事故の再発防止に向けた提言は、医療事故対策の英知を集結した素晴らしい内容のはずです。しかし、その内容のすべての『好ましい条件』をすべての医療機関に当てはめることは不可能です。なぜなら、日本には、地域に密着した中小病院が多いからです。地域環境、施設規模、医療資源の点から、救急や介護を含めた様々な規模の医療機関のすべてで同様には提供できません。これらの中小病院を無視して現実の医療は成り立ちません。大規模病院目線で語られる医療安全対策におけるすべての好ましい条件を『標準的プロセス』と勝手に決めつけ、模倣すら成し得ない中小病院に対して「逸脱している」と断罪することは、権威勾配というパワー・ハラスメントでしかありません。多様な医療施設の存在を想定し、問題の解決に導くために許容できる「最大公約数」的発想での医療安全方法論を提示することが、医療事故調査委員会のミッションです。(5)成功報酬を得たい弁護士そして、成功報酬で利潤をむさぼる弁護士が、「○○が望ましい」を「○○すべきである』と曲解し、医療事故調査報告書を訴訟に悪用しています。繰り返しますが、現在の医療事故調の趣旨は「医療安全」一択です。人が介在すると、そこにエラーがいつでも発生しえます。再発防止を目的とした事故調では、人に責任をなすり付ける発想を棄捨しなければなりません。不適切な事故調は、事故の引き金となったヒューマン・エラーを特定しただけで調査を終了しています。ヒューマン・エラーが起こる複合的な要因を特定しないままでは、再発防止に資する十分な提言を作ることは叶わず、消費者の被るリスクを低減できず、リスクが放置されるだけです。事故から得られる情報や資料は、事故によって失われた、あるいは損なわれた身体や尊い生命の犠牲の上にあります。人が陥りやすいシステム・エラーの掘り起こしが、事故調のミッションです。(表2)(3)遵法講習をしていない日本医師会、都道府県医師会、郡市医師会

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