会長 小田原 良治2医療法人協会報 vol. 57号2006年(平成18年)、産婦人科医逮捕の映像がテレビで大々的に放映された。福島県立大野病院事件である。当時はマスコミ等による医療バッシングが激しかった時であり、医師がリスク医療を回避する「立ち去り型サボタージュ」が多発し「医療崩壊」寸前に至った。小松秀樹著「医療崩壊」がベストセラーとなったのはこの年である。2024年(令和6年)の診療報酬改訂により、病院は大幅赤字を計上することとなり、中小医療機関は退出するところが増加している。地方に行けば行くほど「医療崩壊」は深刻な問題となりつつある。また、このような時期に、「脳外科医竹田くん」という4コマ漫画が、ネット上を駆け巡った。これは、実話とされており、作者は関係者であることが明らかとなった。情報漏洩問題はさて置くとして、「脳外科医竹田くん」という漫画が、あらためて「リピーター医師」の問題を突きつけたことも事実であろう。「リピーター医師」問題は、旧第三次試案・大綱案当時から、一つの大きなテーマであった。ここで、また、「リピーター医師」を根拠に、「医療事故調査制度」を旧第三次試案・大綱案に引き戻そうとするかのごとき議論があるようである。このような発言では重大な点が見落とされている。事故再発防止の仕組みは「医療事故調査制度」に既に組み込まれており、「リピーター医師」問題は、ある面対応済みなのである。「医療事故調査制度」は、2016年(平成28年)6月24日に見直しが行われた。この時、医療法施行規則が一部改正され、「病院等の管理者は、…当該病院等における死亡および死産の確実な把握のための体制を確保するものとすること」と謳われた。また、同日付け厚労省医政局総務課長通知では、「当該病院等における死亡および死産の確実な把握のための体制とは、当該病院等における死亡および死産事例が発生したことが病院等の管理者に遺漏なく速やかに報告される体制をいう」と明記されている。これを受けて、日本医療法人協会は、「死亡全例チェックシート」の作成を提案し、その記載例まで提示している。要するに、管理者により死亡事例が確実に把握されていれば、再発は防止されていた可能性が高い。「死亡および死産の確実な把握のための体制確保」は、病院等の管理者に課された義務である。このことを管理者が認識しているか否かも問題だが、「死亡全例チェックシート」等を整備したにもかかわらず管理者への報告がなされていない状況があるとすれば、病院等の職員に対しても、管理者への報告義務があることを周知する必要があるのかもしれない。巻頭言医療崩壊前夜のリピーター医師問題
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