鹿児島県医療法人協会会報 57号
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いつき会ハートクリニック佐藤 一樹3医療法人協会報 vol. 57号医療事故調査制度(2015年10月施行)の開始から10年となる。「改正医療法(2014年6月)」に新設されたこの制度の運用にかかる医療法施行規則(「省令」)、および、医政局局長通知(「通知」)の「たたき台」として作成され、実質上の原案となった「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン」(現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会 2014年10月1日公開)を基に、2015年3月の「医療事故調査制度の施行に係る検討部会とりまとめ」の公表を受け『医療事故調運用ガイドライン』(編集:日本医療法人協会医療事故調運用ガイドライン作成委員会 へるす出版)が2015年9月に出版された。その根源の支柱は以下の5本である。【原則1】遺族対応を最優先とする 【原則2】法律に則った判断を行う 【原則3】制度は医療安全の確保を目的とし、紛争解決を目的としない 【原則4】非懲罰性・秘匿性を守る 【原則5】院内調査を中心とし、地域・施設特性に応じた運用を行う一連のガイドラインの作成・編集には、「現場の医療を守る会」(厚労省の「第三次試案」「大綱案」に危機感を強めた医師・法律家の有志により結成された会)の9人の世話人に、医療法制に詳しい弁護士が複数参加した。このメンバーによるガイドライン作成委員会では、愛着を込めて通称「元帥」と呼ばれていた鹿児島県医療法人協会の小田原良治会長の人権重視・遵法精神に根ざした正義感とリーダシップが、本制度を適正かつ穏健な形に導いたと私は断言したい。特に今となっては当たり前と思われる【原則3】は、小田原先生と医療法人協会顧問弁護士の井上清成先生の「医療の内と外の分離論」がパラダイムシフトとなり、「医療安全・再発防止」と「紛争解決・責任追及」を明瞭に線引きした。一方、医療事故調査制度の成り立ちに私の活動が多少なりとも反映されたとすれば以下の二つである。 ① 医師法21条の正しい解釈「外表異状説」を厚生労働省に認めさせたこと ② 通知に「当該医療従事者や遺族が報告書の内容について意見がある場合等は、その旨を記載すること」を入れたこと小田原先生は、医療事故調査制度成立の経緯について書籍『未来の医師を救う医療事故調査制度とは何か』(2018年・改訂版2025年 幻冬舎)において詳細に言及されている。これに加え『死体検案と届出義務 医師法第21条問題のすべて』(2020年 幻冬舎)の中でも、医師法21条「外表異状説」普及に関する元厚生省課長補佐で医師・弁護士・MBAの田邉昇先生と追随した私の活動について評価をいただいている。最終的に「省令」と「通知」を決定する「医療事故調査制度の施行にかかる検討会」(2014年11月~ 15年3月)では、「医療の内と外の分離論」の小田原・井上タッグチーム、「医師法21条外表異状説」の田邉・佐藤タッグチームは、構成員・随行員として会議に参加した。今回、小田原先生から本誌執筆の機会をたまわり、上記①について振り返ることとした。「1」が5つ並ぶ平成11年1月11日(1999年)に横浜市立大学病院事件(患者取り違え)、その1ヶ月後の2月11日都立広尾病院事件(薬剤取り違え)という明らかな医療過誤からはじまる一連の医療事故・過誤報道を受け、医療界へは厳しい批判が巻き起こった。その世論に対し、当時の厚生省は医師法21条1を拡大解釈し、診療関連死・外因特別寄稿11.はじめに 私と医療事故調査制度2.11.1.11の1月後からの医師法21条解釈の混乱巻頭言/医師法21条「外表異状説」普及活動と「医療の内と外の分離論」医師法21条「外表異状説」普及活動と「医療の内と外の分離論」

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