6医療法人協会報 vol. 57号が、法律に興味が有る医師や学生向けの「医療法学夏季セミナー」を東京大学本郷キャンパス内で主催し、私はこの講師を担当することになっていた。これに向け、夏休み期間は連日国会図書館に通い詰め、図書館とネット上にある医師法21条に関する判例や文献を悉皆的に渉猟して研究した。80近くの文献を読み込んだ結果、米田-田邉「外表異状説」普及活動に追随する自信をつかみ、最初の「医師法第21条再論考」の講演を行った。しかし、大磯先生はその場では首肯しかねる態度を示した。これには落胆したが、一人だけ強力な賛同者がいた。東京保険医協会広報部で協会機関新聞を担当する於曽能正博先生であった。於曽能先生は、「500回以上、医師法21条の話しをした」という田邉先生の講演を聞いていた。「田邉先生と同じことをお話されている。是非、東京保険医新聞に投稿してください。」という流れで『「医師法第21条」再論考-無用な警察届出回避のために-』(2011.10.25)6『「異状死」の定義はいらない』(2011.11.15)7と題した「外表異状説」を解説する2編の論考を執筆した。この論考を最も高く評価してくださったのは、田邉先生と医療ガバナンス研究会を主催している上 昌広先生であった。これにより医療ガバナンス学会のMRICへの転載が実現した(10月31日・11月17日)。さらにMRICの読者から週刊『医事新報(2012.10.6)』のQ&Aの欄で私を指名して「医師法21条の法解釈の現状」について質問があり、これに応じた8。①「異状死の届出義務」の法律は存在しない、「異状死」の概念規定や定義もない、[異状死体等の届出義務]が正しい②「検案」とは医師が死因等を判定するために死体の外表検査をすること(最高裁判決)③最高裁判決が出て「国立病院スタンダードマニュアル指針」は誤っていることが確定したのに放置している厚労省の不作為は怠慢だ④日本法医学会「異状死ガイドライン」(1994年)「診療関連過程死異状届出説」(2002年)も取り下げるべき⑤日本医学会基本領域19学会も「異状死」と「異状死体」相違を混同して21条を理解していない等、厚労省、特に法令に疎い医系技官や医学会を徹底的に批判した。それでも、井上先生や大磯先生らの医事法のオピニオンリーダーからの賛同は得られず、ムーブメントにはならなかった。医療事故調査制度に警察届出機能を持つ「第三次試案」「大綱案」と制度策定への道は進み、法制化の寸前で、医療界の猛反発や舛添要一厚労大臣の英断、自民党から民主党への政権交代によって頓挫していた厚労省の事故調創設の動きは、2012年2月に「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」(あり方検討部会)として再開した。第7回(2012.9.28)、予定に「捜査機関との関係について」とあり、医師法21条について論議されることになった。会議の参考資料には21条の条文の直下に「死体又は死産死については、殺人、傷害致死、死体損壊、堕胎等の犯罪の痕跡を止めている場合があるので、司法警察上の便宜のためにそれらの異状を発見した場合の届出義務を期待したものである。したがって、「異状」とは病理学的の異状ではなくて法医学的のそれを意味するものと解される。(下線は筆者による)」と記載されていた。この文言は当時の「死亡診断書記入マニュアル」では「『法医学的異状』については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』等も参考にしてください。外因による死亡またはその疑いのある場合には、異状死体として24時間以内に所轄警察署に届け出が必要となります。」とつながる。「このままでは、『異状死ガイドライン』が採用されてしまう。」戦々恐々として傍聴席に座った。しかし、前項の論議が長引き、医師法21条についての論議は第8回(2012.10.26)に延期された。ホッとしたと同時に「ここが勝負どころだ!」と動きだした。先ず『医師法第21条再論考』『異状死の定義はいらない』『医事新報Q&A』の3編を同封し2012年10月20日必着で、厚労大臣、事務次官、政務官、医政局長、大臣官房審議官、医政局総務課長、同局医事課長、同課医療安全推進室長、あり方検討部会の構成員14人全員に、「医師法21条の誤った法解釈を正す件」(図2)と題した文章を郵送した。これらについては、検討部会の構成員のうち現場の医療者を代弁できる3人、日本医師会常任理事の高杉敬久先生、秋田労災病院第二内科部長で特定非営利活動法人医療制度研究会会長の中澤堅次先生、全国医学部長病院長会議会長で昭和大学病院病院長の有賀徹先生には、従前から対面で説明させていただいていた。7.厚生労働省「あり方検討部会」関係者への働きかけ(2012.10.20)
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