8医療法人協会報 vol. 57号一方、「死亡診断書記入マニュアル」は2013年度も2014年度も「外因による死亡またはその疑いのある場合には、異状死体として24時間以内に所轄警察署に届出が必要となります」「『異状』とは『病理学的異状』ではなく『法医学的異状』を指します。『法医学的異状』については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』なども参考にしてください。」の文言が残っていた。これを変更させる戦略は、現諌早市医師会長の満岡渉先生と小田原先生、井上先生と協力して、当時の橋本岳厚生労働政務官に働きかけた。2014年6月17日午前8時、筑波大学の元外科医で民主党の足立信也議員(現大分市長)から私の携帯に電話がかかってきた。「今日の参議院厚生労働委員会で安倍晋三総理大臣に『死亡診断書記入マニュアル』の記述を変更する件について質問する。医師法21条の解釈について、今一度、佐藤先生に確認させていただきたい。」とのことだった。その数時間後、安倍総理は「『マニュアル』の記述変更を前提としており、見直しに向けて厚労省で適切に検討を進める」と改訂の約束をした。これにより2015年の死亡診断書記入マニュアルから「外因による死亡・・・」「『異状』とは・・・「法医学的異状」を指します。・・・『異状死ガイドライン』・・」の文言は削除された。「外表異状説」が確立して、診療関連死の警察届出は不要となり、医療刑事事件も抑制され、警察の代わりとなるはずだった第三者機関の存在意義や権限も薄らいだ。医療事故調査制度は「医療の内」のものとして院内事故調査による「医療安全・再発防止」に特化し、「紛争解決・責任追究」を「医療の外」に押し出した。こうして「外表異状説」に「医療の内と外の分離論」が連動し、本制度をほぼ適正な形に導いた。しかし、第三者機関である医療事故調査・支援センターの報告書を遺族に交付することは阻止できない。この報告書がメディアに公表されたり、紛争に利用されたりすることも実際に起きている。一方、1997年21件にすぎなかった医療関連警察届出総数は、都立広尾届出事件最高裁判決の2004年には255件と10倍以上に増加したが、医療事故調査制度開始2年後の2017年には46件に減少していた。ところが、直近の2023年、2024年は2年連続で100件を超えている(図1)。この流れのままであれば、医師法21条「外表異状説」普及活動の再開が必要になるであろう。(了)1 医師法21条〔異状死体等の届出義務〕医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。2 「医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う。」国立病院リスクマネージメントスタンダードマニュアル作成指針(「国立病院スタンダードマニュアル指針」)3 「以下に該当する患者の死亡または重大な傷害が発生した場合には、診療に従事した医師は、速やかに所轄警察署への報告を行うことが望ましい。・何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、または何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡や重大な傷害の原因となったと考えられる場合。」日本外科学会 診療行為に関連した患者の死亡・傷害の報告についてのガイドライン(「外科学会ガイドライン」)4 確実に診断した内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体5 「異状」とは「病理学的異状」ではなく、「法医学的異状」を指します。「法医学的異状」については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』等も参考にしてください。外因による死亡またはその疑いのある場合には、異状死体として24時間以内に所轄警察署に届け出が必要となります。6 東京保険医新聞 2011年10月25日号「視点」http://medg.jp/mt/?p=15097 東京保険医新聞 2011年11月15日号「視点」http://medg.jp/mt/?p=15208 日本医事新報No4615 2012.10.6 62-63頁9 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002pfog.html10 https://www.m3.com/news/open/iryoishin/22348210.おわりに脚注
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